■海幸彦・山幸彦の伝説を物語る磯良恵比須(いそらえべす)
『魏志倭人伝』に、対馬の地勢を描写したくだりがある。
居所絶島にして、方四百余里ばかりなり。土地は、
山険しくして、深き林多く、道路は禽鹿の 径のごとし。
禽鹿の径とは「けもの道」のことだが、実吉達
郎氏の『動物から推理する邪馬台国』で、興味深
い解釈にであった。禽鹿、つまり鳥や鹿だけでは
なく、ほとんどの鳥獣が「対馬型」とよぶべき亜
種であって、なかにはこの島々にしかいない珍種
があるという。
ツシマヤマネコはいうまでもないが、ツシマヤ
マガラ・ツシマヒガラ・ツシマコゲラ・ツシマカ
ケスなど、みな対馬が冠せられている。
ツシマジカにいたっては、「ただものではな
い」という。なんと、日本では約一万年前に絶滅
したニホンムカシジカだというのだ。「禽鹿の
径」を歩いていたシカは、一万年前に滅びたはず
の、化石ジカだったという。まるで、ロストワー
ルドのような島だが、それだけに古代信仰の痕跡
が色濃く残っているようだ。
(『磐座百選』より一部抜粋)
■天道信仰の聖地、天道法師搭
対馬に伝承されているテンドウ(天道)信仰を
訪ねる。テンドウとは、いわゆる「オテントウサマ」のことで、
日神の子・天道童子の意とされ、母親が日光に感精
して懐妊したという話が伝わる。童子はのち法師
となり、菩薩と崇められた。独自の宗儀をもって
いたことで、「対馬神道」ともいわれる。
厳原町、豆酘八町郭 にある天道法師搭を訪ねる。
『神道事典』で天道信仰をみると、「日神とその
子の天道法師にまつわる信仰」とあり、穀霊や祖
霊の信仰をも包摂する形で、対馬の習俗として伝
わっているとされ、さらに、
対馬の天道信仰の最大の特色は、社殿や神体
を伴わない祭祀形態にある。天道信仰の聖地
である天道地は、シゲと呼ばれる茂った森の
なかに、カナグラと呼ぶ祭壇を設けるが、こ
れらは神籬(ひもろぎ)と磐座の一種と考えることができ
る、とあり、古代祭祀に見るような、祭儀の形態が
保たれていることが指摘されている。ここにいう
カナグラとは「神座」のことで、磐座と同じよう
な意味をもつ。
(『磐座百選』より一部抜粋)